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「だから、ここだよ?」

きょとん、と首をかしげる。

「ここ?」

きょとん、と首をかしげる。

「そうだよ?ここだよ?」

きょとん、と首をかしげる。

「困ったなぁ…」

かしげた首を元に戻し、彼は周囲を見渡す。


彼がバーと指すそこは、非常にぼやけて見える。

視界を擦っても、何かがある、程度。

これでは近づけない。



「ん?」

ふと、彼の方を見やる。

1人の男が見えた。



「…はい。どうぞ。ジン・フィズです。ドライ・ジンは通常より控えめで」
にこり、とカウンターにカクテルを置くワーズに、ソラーリオは小さく肩をすくめる。
「弱いといっても、そこまでなさる必要はないんですがねぇ…」
いいながら、ごくりと一口。
お酒というよりは少しアルコールの効いたジュース、という表現が見合うだろうか。
レモンの風味を幾許か強く感じ、ぼんやりと彼は思う。

「けれども珍しいですね。ソラーリオさんがお店に立ち寄るだなんて。
片手で数える位じゃないですか?」
「…ええ。不思議なんですけどね。どうしてか急に、寄りたくなってしまいまして。
何ででしょうねぇ?」
自身も分からない、といった風に首をかしげる。
今日はどこに行く予定だったんだろうか、足元に置かれているバックを見る限り、
一仕事終えた後なのかもしれない。

「……最近、彼はこの店に来られるんですか?」
「……彼、ですか?」
「ええ。彼です」
言わずもがな、といった風体のソラーリオに、ワーズは少し、笑むように顔をゆがめる。
「以前ほどは、…ですかね。お仕事、忙しいのかもしれません」
或いは、
言いかけた口を、ワーズは小さくつぐむ。

最近、自分が不安定なのは分かっている。
それでもこうして店に立っていられるのは、あくまで思っているだけ、だからだ。
口に出してしまえば、…
その不安は力を持ち、自身を支配してしまう。
…そんな、もやを心に抱き、…振り切るように、スィ、とグラスを並べていく。

「………」
何か言いかけ、そしてソラーリオは小さく息を吐く。
これ以上、その話題を出せば、
彼女は更に、無理に笑顔になるだろう。
それは…友人として、見ていて辛い。

「ああ、」
思い出したように、ソラーリオは鞄を手に取るとごそごそ探し始める。
「どうしたんです?」
「いえ、そのですね…仕事と別口で…ちょっと、手に入れたのですが……、
ああ、ありました」
しゃら、、と何かが擦れる音がする。
鞄から取り出したソレは、一つのペンダントだった。
上に円方の取っ手が付いているその十字架を、ソラーリオはワーズに差し出す。

「何、と言うわけでもないんですけれどね、お守りや魔よけにもなると思いますし、
宜しければどうぞ」
「私に、ですか?」
おず、と差し出すと、ソラーリオはその手にペンダントを載せる。

「まぁ、お守りの類なんて所詮は迷信ですけれどねぇ」
「ええ。…でも、私そういうの好きですよ?…いいって言われているなら、皆やってみたいじゃないですか。
何も無くたって、それで自分の心は…少なくとも軽くなりますから」
ありがとうございます、とワーズは顔をほころばせてそれを受け取る。

「“Ankh means "life", "to live". ”…」
「え?」
「…アンクの意味、素敵ですよね。…生きること、…ですか」
「……随分お詳しいようで?」
「え、ええ?…ああ、きっと、昔読んだ本か何かに…」
言われてワーズは、一瞬不思議そうな顔をし、そしてまた笑顔に戻る。
どうして自分が知っているかなんて、本当の所分からない。
なぜなら自身には、過去の記憶が、紙喰い虫に食われた本のように、所々欠けているからだ。
けれども、…知っている、と言う事は…何かで読んだ本に書いてあったんだろう。
覚えていない事は多いけれど、
自身が物凄い読書家であった事は覚えているから。
…過去形ではなく、現在進行形で。

「さて、では私はそろそろ行きますか」
「え?…もう、ですか?」
まだ一杯しか飲んでいないのに、とカウンターに目を落とせば、ソラーリオは懐からサイフを出し始めている。

「…宜しければ、また寄って下さいね」
「ええ、勿論ですよ」
ソラーリオは代金をワーズに渡しながら、柔和な声で言う。

彼女に見えた限りは、少し、軽くなったように見えた。


…けれども、



店を出て、暫く歩きながら、ソラーリオはふと思う。

……さて、あのアンクは…どこで手に入れたものだったんだろうか…。

考えても答えは出てこない。

少なくとも、彼女はアレによって元気が出てくれればいい。

そう思い、ソラーリオは自分の店へと再び歩みを進める。

アンクの事など、もう、頭の隅には残さずに。
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2009.02.02 


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