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「…けれども、今の儂は、…なんもでけへん儂は、
それでも…『斬る』事以外、なんも…でけへんのや…」

痛みを堪え、雪之丞は立ち上がる。

何も持っていなかった筈の手には、いつの間にか一振りの刀が握られていた。


そして、

開かれた窓から脱兎の如く駆け出し、飛び降りる。

落ちながら刹那、その落下点にたむろする、幾つかの人影が見える。

黒き衣を纏いて、様様な仮面を付けた者達が。



落ちならが雪之丞は、刀を構え笑う。
瞳は、鬼のソレの如く、紅く輝いていた。











初めは熱だった。
ただ、熱さを感じた。

そして次に、痛みが走る。


そして、

意識は闇へと、沈んだ。



…………

……

手には剣を、

闇夜を見透かし、

屍の中央に鎮座するは、

紛れも無い自分。


………

……



そして、痛みが再び、意識を現へと、戻させる。



ズクズク、と背が疼く。
風邪を引いた時の様な熱っぽさとだるさが全身を包む。

「………」
呆けた様に周囲を見渡せば、そこは一面の白。
…どこかの病室の様に見えた。

何故、…こんなところにいるのだろう。
痛む背中は何なのか。
周囲を見回してもしかし、答えは見つからない。

起き上がる事ができるのなら、周囲の探索も出来よう。
背の痛みに敏感に、慎重に体を持ち上げた矢先、

カチャリ、

部屋にあった唯一の扉が、向こう側から開かれた。

「……ッ…」
息を呑む。

ゆっくりと扉は開かれ、


「おお、やっと起きたか?雪ちゃん」
馴染みの懐かしい顔、そしてその呼称、

唐突の再開に、雪之丞は目を見開く。
「龍…茲?」
「おお、なんだ幽霊でも見た様な顔で?」
安堵を浮かべた笑みを湛え、龍茲…鉤辻組の先代頭は、雪之丞のベットに腰掛ける。

「全く、お前がこんな事になるなんて…腑抜けもいいところだな?」
「……せや、な…。…いや、儂は何で、こないな所におるんや…?何がどうなってるんかも…」
「何?そこから既に分かってなかったのか?」
呆れたように、大仰に肩を上げつ龍茲。

「まぁ、かいつまんで話すとな…雪ちゃん…お前さんはある人物に襲われた。
…発見された時には、既に死亡、と言われていた。
しかしお前さんのことだ、それは無いだろう、とこの病院に担ぎ込んだ。
ん?ああ、ここは笹沼病院だ。
そして目が覚める今の今まで、ずっと此処で寝ていた。
…そんなもんだな」

「…刺されて、」
鸚鵡返しに呟く雪之丞は、半ば愕然としたような表情を浮かべる。
まさか、自分がそんな状況に陥っていたとは、
……背後に立たれるまで、気が付かずに、無様に殺される事になろうとは、

「せ、や。…坊…坊や、未来達はどないしたんや?無事なんか?
変なもんに巻き込まれたりは、」
「ああ、…そうだな。
変なもんってレベルで収まるかどうか…
まぁキッカケ、だったんだろう。
お前さんの死によってな、堰き止められていたように沈黙を図っていた組織が段々と動き始めた。
今や、大抗争の渦中…鉤辻の他の奴等は、まだ死人は出ていない様だが
この先どうなるか分かったもんじゃ、お、おい!?」

返す言葉もそぞろ、雪之丞は痛む背に脂汗を浮かべ起き上がると、そのまま白い扉を目指す。

「…どこに行く気だ?」
「儂が、せめて儂が無事と伝えんと…戻らんと、」
「『戻る』だと?」
呆れたように龍茲は笑う。

「その無様な格好で戻る気なら、俺は体を張って止めなきゃいけねぇな?」
「…なんでや…?」
「なんでや、だと?……頭の中まで腑抜けるとはな」
ヤレヤレ、と龍茲は雪之丞の瞳を見据える。

「仮に、今お前が鉤辻に戻ったとする。
そうすれば、多少の混乱もあるだろうが、
そのまま問題なく以前の鉤辻組として行動するかもしれない。
だが、そこにお前が生きていたという『安堵』が加わる。
安心感ができれば次は何が生まれる?
緊張感を保っていた奴等には『隙』が生まれ、
一瞬の油断は死に繋がる。
考えなしにお前が鉤辻に戻った途端、誰かが殺られる可能性は十二分だ」
反論の間もなく訥々と述べられる言葉に、雪之丞は歯噛みをする。
確かに、その通りだ。

多くの組織が探り合い、殺し合う中で、一瞬の油断は取り返しの付かない結果に陥る。

しかし、

「せやけど、それは仮定、の話や…。
儂かて、少し痛みを我慢すれば刀も持てる、多少の、戦力にかて、」
「…人の話、聞いていたか?」
言葉を遮り、龍茲は低く視線を落とす。

「世間でのお前は、既に『死んだ』事になっている」
「…せやけど、」
「ああ、そうだな。ここで今、確かに雪之丞は生きている。
だが、人間じゃ致命傷のその傷を抱えて、なんで雪之丞は生きているんだ?」
「……ッ…」


言葉を失う雪之丞を視界の隅に、龍茲は立ち上がると病室の窓を開けた。
夜風が、気持ちよく頬を撫ぜる。

「今は、動くな。
時間がたてば、…この争いが収まれば、どうとでも説明が付く。
俺が幾らでも上手な言い訳を考えておいてやる、
問題なく組にも戻れる様にしておこう
…だからな?」

睨むように、脅すように、一度だけ雪之丞を深く、睨み、

「ま、ゆっくり今は休んでいろ、雪ちゃん?」
子供のそれにするようにポンポンと雪之丞の頭に手を置き、
俺も忙しいんでな、と龍茲は病室の扉を開いた。





足音は遠ざかり、
静寂が訪れる。




じっと、しておけ?
戦っているのに?
誰もが、
この街で生を持つ者達が、
戦っている、この中で、
休め、と?



龍茲の言う事は正しい。
じっとしていれば、恐らく望む形に近い、結果が得られるだろう。


けれども、

それでも、





「…けれども、今の儂は、…なんもでけへん儂は、


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2008.11.03 


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