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『-仮にそこが過去と気が付いた時点で、してはならないタブーがある。
そては、自分の名前を相手に教える事-』









私は、過去の記憶がいくつか、欠如している。

お父さんは、それを補うかのように、

私に様々な話を、聞かせてくれた。








お父さんは魔法使いだった。
色々な道具を持っていて、色々な魔法が仕える、魔法使いだった。

お父さんに関して、言えば、それが一番最初に思いつく。

あの頃は、幼い子供の頃は、
電子レンジだって魔法に思えただろう。
お話から広がる出来事は、目の前に起こる現実に相違ないと思っていただろう。

だから、お父さんは別に魔法使いじゃなかったんだと思う。

けれども、










夢うつつに、手を引かれる。

「お父さん?どこに行くの?」
寝ぼけ眼を擦り、ワーズは父を見上げる。

優しい、暖かい、手。
安心できる、暖かい、手。

「お父さんの秘密の場所だよ、ワーズ」
父は悪戯っぽく、笑った。

「私も、付いて行っていいの?」
魔法使いの秘密の場所、そんな素敵な単語に、ワーズは心躍らせる。

「勿論だワーズ、けれどね、これから行く場所で…絶対にしちゃいけない事がある。
守れるかな?」

絶対に、という単語に飛び上がる。
守らなきゃ駄目と言われた約束を破ってしまったが為に、
不幸になってしまった人たちを、沢山知っているから。

「守る!私、絶対守るから!」
思わずぎゅう、と握り返した手を父は優しく握り返してくれる。

そして、囁くように、こういった。
「それはね、………








父のコートの裾にしがみつきながら、ワーズは物珍しそうに街を歩いていた。
自分がいる街とあまり変わらない、その街。
けれども、ここは不思議な場所。

少しでも、自分の目に映る不思議を見ようと、ワーズは夢中で辺りを、きょろきょろ見回す。
けれども、やっぱりそこは、自分の見知った街。

…なーんだ…。
不服そうに頬を膨らます娘に気が付いたのか、父は彼女の手を引き、ある場所へと移動する。

「ほらごらんワーズ。ココに、お父さんのお店がないだろう?」
「…あ、あれぇ?本当だぁ…」
何でだろう、と不思議そうにワーズは首をかしげた。

「今から数年後に、BARが出来るんのだからね。
ほら?これで証明になったかな?」
父は、少し自慢げに胸を反らす。
「うん!凄い!お父さんはやっぱり魔法使いなんだね!」
ワーズは、無邪気にはしゃぎ、ニコリを笑みを浮かべた。




「少し、ここで待ってくれるかな?」
比較的平和そうな公園の一角。
噴水の脇にワーズを腰掛けさせ、父はその頭をくしゃり、となぜる。
「どこに行くの?」
「そこのね、お店に用があってね。そう。この時代でしか入らないもので…ええと、まぁ説明してもワーズには難しいからなぁ…うーん。一人で待っていられるかい?」
「うん!私待てるよ!」
きっとお父さんが買いに行くのは凄い魔法の道具とか何かなんだ。
父の邪魔をしてはいけない、とワーズは明るく返事をする。
「よし、いい子だ」
お土産も買ってきてあげるから、と父は軽く片手を挙げ、道路の向こうの何か訝しげな店へと入っていった。





ぽかぽか、気持ちのよい午後。
暫く足をぷらぷらさせたり、餌をついばむ鳩を眺めていたりしたけれど、それも次第に飽きてくる。
…あーあ、絵本、持って来ればよかった。
すっかり退屈顔のワーズは、スカートの裾を踏まないように、ぴょん、と地面に着地すると、
そんなに広くない公園を探索し始める。

…私の知ってる公園は、もっとブランコも錆びているし、看板だって剥げている…
むむ、ここが違うぞ。と、ちょっとした探偵気分でワーズはあちこちをキョロキョロしながら歩き、


ドン。

「わぷ!」
何かにぶつかり、すてん、と尻餅を付いた。
痛いよりも、誰かに見られていたら恥ずかしいという思いが先に来て、ワーズは慌てて立ち上がろうとし、
そして、

「すまない。大丈夫か?」
強張った様な堅い声とともに、にゅ、と大きな手が伸びてきて、ワーズはぎょっとする。
見上げれば、…恐らく今しがたぶつかった張本人であろう人物…がこちらを見下ろしている。
「あ、ありがとうございます…」
恐る恐るその差し出された手を取れば、そのまままっすぐ勢い良く上に引っ張られ、
勢いでしゃきん、とワーズは立ち上がる。


「怪我はないか?」
「だ、大丈夫…です」
お父さん以外の、大人の男の人となんて喋るのも初めてだ。
強張ったような顔が自分でも分かる。
カチンコチンに固まっていれば、相手は不思議に思ったのか、
そのまましゃがむと、こちらを覗き込む。

鋭い視線が、こちらを見据える。
訳も分からず、ドキン、と心臓が跳ねた様に感じた。


「本当に、………む…その瞳、」
そして、急に自分の手を掴む力が強くなって、ワーズはハっと我に返る。

ここが、どういう街か、忘れていた。
悪の住まう、暗黒街。

眼前で、自分を凝視する男。



……ゆゆ、ゆ、ゆ、…誘拐されちゃう!!!


唐突にそういう結論に思い至ったワーズは、
大丈夫ですとかもう適当に返事をして、思い切り腕を引きはがずと慌てて走り出す。
道路の向こうの、お父さんのいるお店に向かって。

「君、ッ!」

わ、わわわ!
追いかけてくる気配に、更にワーズはパニック状態になる。
そうして、もつれた足は、案の定、ワーズをすてん、と転ばせた。

お、起きなきゃ、追いつかれ、

再び立ち上がろうとして、そうして不意に、自分の左側にから、何かが迫るのを感じた。
…え?
さっきの男の人は後ろにいた筈だ。
きょとん、と横を向くワーズの眼前には、一台のトラック。

……あ、

思考が、行動が固まる。
起き上がれという頭の叫びは、体に届かない。

成す術も無く、ワーズは、ぎゅうと自分の耳を握り締め、


そして、
鈍く、耳を劈く音が、その一角に響き渡った。




痛みは無かった。
代わりに、暖かい、ぬくもりを感じた。

あれ?

恐る恐る目を開ければ、スリップしながらも何とか止まっていたトラックが、肩越しに見える。
…肩越し?
そこでようやく、自分が抱っこされていた事に気が付き、ワーズは混乱した。

「あれ…私…」
「怪我はないか?」
そう、っと腕から開放され、ぱんぱん、とスーツの埃を払う男を見て、
そうしてやっと、自分が、逃げていた筈の相手に助けられた事を知った。


「……ふ…え……」
安堵したと同時に先程の恐怖を思い出し、ワーズはぽろぽろ、大粒の涙を零しだす。

「…む…」
困惑したような声が頭上から聞こえたが、涙は止まる事を知らない。
怖かったのと、助かったのと、訳のわからない感情が、小さな頭の中をぐるぐると駆け巡るのだ。


「ちょっと、何小さい子泣かしているの?」
唐突に、女性の声が2人の間を割ってはいる。
「いや、それがな、」
「はいはい。言い訳はいいの。……んー…大丈夫?お嬢ちゃん?」
気まずそうな男の声を遮り、その女性はワーズの目線に腰を屈めると、ワーズの零れ落ちる涙をそっと拭ってやる。
「あう…え、と」
突然登場したその女性は、しかし優しい空気を纏っており、混乱していたワーズを僅かに落ち着かせる。

「…全く凄い音がしたと思ったら貴方は何して…あら?」
そこで女性は、何かに気付いたかのようにワーズの瞳を覗き込む。
そして、ああ成る程、という笑み。

「大丈夫よ?あのおじさんは強面で厳ついけれど別に貴女を取って喰やしないわ。
きっと貴女の事、好きになちゃったのよ」
「す、きに?」
ドキン、と心臓が跳ね上がる。

「だってほら私と貴女と、同じ髪で同じ瞳の色をしているもの」
「…同じ?」
言っている意味が分からずきょと、と首を傾げれば、その女性は優しくワーズの頭を撫でる。
どうしてそんなに女性が嬉しそうなのか分からないまま、首をかしげたままで入れば、
気まずそうな咳払いが聞こえ、
見れば所在無さ気に先刻の男が不機嫌そうな顔でこちらを見ている。

「…あら、そういえば仕事の途中だったかしら?」
「ああ。…すまないが、その子を家まで送っていってやってくれないか?」
「あら、言われなくてもそうするつもりよ?」

「あ、あの、」
自分をよそに進んでいく会話に、ワーズは慌てて顔を上げる。
「お父さんが戻ってくるの、待っているだけだから、」
「あらそう?けれどもそれまで一人ぼっちなんでしょう、一緒に、」
「だ、大丈夫。噴水の所で待っていれば、お父さん、来るから」
そう言わなくちゃ、だって、この場所に、私の住んでいる場所はきっとないから、


そういって私は無理に、その女の人と男の人を納得させて、







て、








「あ、」

ぱちり、と目を覚ます。




いつの間に寝間着に着替えたのだろう。
窓からうっすらと日の光が差し込んでいる。


「…そういえば…そんなお話、お父さんに聞いたんだっけ」
ぼんやりと重たい頭を傾げながらワーズは呟く。


けれど、聞いた話にしては、
父親が娘に作った作り話にしては、それは酷く、リアルで、


…分からない。
考えたって、それが現か夢かなんて、分からない。



『お詫びになら無いだろうけれど、これを君にあげよう』
気まずそうな顔で、彼は私にソレを手渡す。
私が戸惑っていれば、女の人が笑顔で変わりに私の手に乗せてくれた。



………

「そうだ…」

それが、あの夢の続きだった。


私はソレを手に取る。
いつも見につけている、赤いリボン。
私が、リボンが好きになったキッカケの、最初のリボン。

けれども、これはお父さんがくれたのかもしれない。

子供の頃の記憶なんて、酷く曖昧なのだもの。




けれども、

ソレが何故か、

苦しく、辛く、そして愛おしく思えた。


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2008.12.21 


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